LIFEHOUSE ELEMENTS LIFEHOUSE ELEMENTS   
          Pete Townshend   
01. one note - prologue
02. baba o'riley (orchestral version)
03. pure and easy
04. new song
05. getting in tune
06. behind blue eyes (new version)
07. let's see action
08. who are you (gateway remix)
09. won't get fooled again
10. baba M1
11. song is over

 幻のプロジェクト「ライフハウス」。それはザ・フーのリーダーであるピート・タウンゼントにより70年代の初めに構想された「ロック・オペラ」である。
 物語はSF的な設定を持つ。仮想現実に縛られた未来世界で、ロック・ミュージックの力により現実を取り戻そうとする人々の物語である。(設定としては映画「マトリックス」の世界を思い浮かべていただくといいかもしれない。)
 このストーリーを核に、映画の制作やライヴ・コンサート、2枚組LPの制作が構想されたが、様々な障害により、プロジェクトは数回のライヴ・パフォーマンスとアルバム「フーズ・ネクスト」のみを残しただけで頓挫する。その理由はいろいろとあるのだろうが、根本的原因としては基本的な構想自体が理解されなかったからではないだろうか。(なにしろ「ヴァーチャル・リアリティ」という言葉すら知られていない時代である。)
 「フーズ・ネクスト」がクオリティの高い作品であったため(「ザ・フーの最高傑作」と呼ぶ人も多い)、そのもととなった「ライフハウス」に対する幻想と期待は高まり、長年にわたってザ・フー・マニアによる研究がなされてきた。(たとえばこれ→「ライフハウス」に含まれる予定であった曲の一覧)「ライフハウス」をネタにしたブートレグも多い。いわばビーチ・ボーイズ・ファンにとっての「スマイル」、ジミ・ヘンドリクス・ファンにとっての「ファースト・レイズ・オブ・ザ・ニュー・ライジング・サン」のようなものなのだ。
 その「ライフハウス」が1999年、突然姿を現した。それもラジオ・ドラマとして。 あわせてeelpie.comから6枚組CDボックス「LIFEHOUSE CHRONICLES」が通信販売のみでリリースされた。そしてその6枚組のサンプル版としてリリースされたのがこの「LIFEHOUSE ELEMENTS」である。
 以下は「LIFEHOUSE ELEMENTS」に掲載されているマット・ケント氏によるライナー・ノーツを翻訳・引用したものである。

 ロック・ミュージックにおけるコンセプト作品は、実例をあげて酷評され、時にはバカバカしいことであるとすらみなされてきた。
 ロック・ソングを並べてストーリーを語ることは、「気取り」や「もったいぶり」に陥りがちであるが、特筆すべき例外がある。批評家の賞賛と一般的な人気の両方を得ているピート・タウンゼントのコンセプト・アルバム「トミー」と「四重人格」がそうだ。これらのアルバムの成功を考えれば、タウンゼントの最も野心的なコンセプト「ライフハウス」が、30年近くも実現されないままでいたことは驚くべきことなのかもしれない。

 「ライフハウス」は、1970年(「トミー」と「四重人格」の間)に構想された。それは科学的要素とサイエンス・フィクション、そして東洋の神秘思想を融合したインタラクティヴなマルチメディア・イベントを作りだそうとする試みとして生まれた。そのねらいのひとつは大規模な予算による映画を制作することであった。
 物語は終末後の社会に設定され、その世界では、都市生活者は自らの家のなかに閉じこめられている。彼らは「グリッド」(訳注:「格子」や「網目」を意味する)と呼ばれる政府のシステムに接続された「エクスペリエンス・スーツ(経験服)」を着ている。「グリッド」は人々に「人生の経験」−人々が体験する必要があると考えられている経験、娯楽やニュースや社会的相互作用、さらにはセックスさえも−を与えるネットワークである。
 あるハッカーが「グリッド」に進入し、人々を「ライフハウス」という名の古ぼけた劇場で行われる現実のイベントに参加させようとする。人々は劇場に集まって、そこで古き良きロックンロール(当然、ザ・フーによって演奏される)のパワーを発見することとなるのだ。

 1971年2月、英国のプレスに対しこのコンセプトが明らかにされたとき、その全体的アイデアはまったく理解されなかった。タウンゼント以外にこのコンセプトを理解できるものはいないように思えた。
 複数のスタジオにおける作品の制作や、数回のライヴ演奏が行われたが、「ライフハウス」のためのマルチメディア計画は、熟度の低いテクノロジーと高い理想との格差に直面し、苦闘を強いられた。
 このプロジェクトのためにタウンゼントが書いた音楽のいくつかは、結果的に、1971年のザ・フーのアルバム「フーズ・ネクスト」に収められリリースされることとなった。そのアルバムは彼らの最もすぐれたスタジオ作品と考えられたが、タウンゼントはそれを妥協の産物であるととらえていた。

 「ライフハウス」を実現できなかったことに深く傷つきながらも、タウンゼントは決してあきらめようとはしなかった。彼はこのプロジェクトのために音楽を書き続け、映画を作るというアイデアを1975年と1979年に再び試みた。また1993年にリリースされたソロアルバム「サイコデリリクト」においても、オリジナルプロジェクトのテーマへの言及が多く見られる。
 年月がたつにつれ、これらのアイデアは次第に理解しやすく、かつ意味深いものとなってきた。現在の視点からすれば、タウンゼントのヴィジョンと、インターネットやヴァーチャル・リアリティのテクノロジーとの間には、明らかな関連を見いだすことができる。

 1999年、タウンゼントは脚本家ジェフ・ヤングと「ライフハウス」のラジオ版の脚本を書くための作業をおこなった。
 その脚本は、もとのプロジェクトに比べてずっとざらざらとした現代的な設定がなされ(「我々はすでに終末後の世界に住んでいる」とタウンゼントは主張する)、物語はミレニアム(千年紀)の最後の日に展開される。しかし、その探求の旅の焦点と、人々が参加し集結することの必要性といった点は、コンセプトの初期の姿をそのまま残している。
 ラジオドラマは1999年の12月5日にBBCラジオ3で放送され、1970年代に録音されたオリジナル・デモや新たな録音、そしてタウンゼントのみならずスカルラッティ、パーセルといった作曲家のオーケストラ作品を含んでいた。また、30年間で初めて、このプロジェクト全体のストーリーを明らかにしていた。

 「ライフハウス・プロジェクト」の実体的帰結を求めて、ピート・タウンゼントは長年制作してきた作品を振り返り、その整理をおこなった。そしてそれは6枚のCDから成るボックス・セット「ライフハウス・クロニクルズ」としてリリースされた。この「エレメンツ」はそのサンプル版であり、また「クロニクルズ」には収められていない曲「ニュー・ソング」を収録している。

 ピート・タウンゼントが「ライフハウス」の音楽を書き始めてから30年が経過し、いまや彼が意図したようなインタラクティヴな経験を与えるテクノロジーが出現している。
 2000年にタウンゼントは「ライフハウス」をライヴで再現することを予定しており、また1971年以来彼が切り開いてきたエキサイティングな音楽的実験も続けてゆく予定である。
 「ライフハウス」はいまや「現実」となったのだ。

(2002.01.20) 

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