★ あこがれのオーディオマニア
1970年代後半、男子中高生の間でオーディオブームがあった。
と言い切っていいのかどうか自信がない。少なくとも地方都市に暮らしていた僕の周りでは、ブームであったことは確かだ。たぶん全国的な傾向だったと思うのだが…。
とにかく音楽好きであろうがなかろうが、当時の男子中高生はオーディオセットに憧れを持っていた。いわゆる「コンポ」と呼ばれていたあれである。
レコードプレーヤーにプリメインアンプ、FMチューナーとカセットデッキ、そして大型の3ウェイスピーカー。スペックをにらみながら、それぞれの機器を自分で選ぶのがオーディオ通とされていたが、とてもそんな暇も金もない一般向けには、大手メーカーが自社製品をそれ用に組み合わせて売り出していて、TVコマーシャルも派手に流されていた記憶がある。
で、クラスの誰かが新しくコンポを買ってもらったと聞くと、さっそくそいつの家に遊びに行き、試聴させてもらったりした。
今でも鮮明に記憶に残っているのは、O君の家に行った時のことだ。O君の親が市の北部に家を新築したばかりで、彼は広々とした部屋を自分用にもらい、そこにぴかぴかのステレオセットを置いていた。
家の周りは田んぼばかり。どんなに大きな音を出したって、近所に気兼ねする必要はない。大きく開けた窓の外に広がる田園風景を眺めながら、真新しいステレオで聞いたビートルズの赤盤は、いつもより素晴らしく聞こえた。心底うらやましかったものだ。
その頃数多く出ていたFM雑誌は、オーディオ雑誌でもあった。僕は小学館が出していた「FMレコパル」を愛読していたが、そこにも「リスニングルーム診断」というようなコーナーがあった。
これは、オーディオ評論家が読者のリスニングルームを訪問して、音響測定などをし、スピーカーの置き方がどーたらとかトーンコントロールでこう補正してこーたらとか、最適なオーディオ環境に向けてアドバイスをするコーナーである。
そこに時々、生意気にも立派なオーディオセットを持った中高生が登場することがあった。彼らの持っている素晴らしいオーディオ機器を見ながら、僕がぎりぎりと歯がみしてうらやましがったことはいうまでもない。
しかし、彼らが誌面でにっこりしながら「僕の愛聴盤です」と抱えているアルバムは決まってB級アイドルなどの歌謡曲か、軟弱なニューミュージックであった。自分で録音した機関車の音を聞いているというやつもいた。
いっぱしのロックマニアを気取って、他人の音楽趣味にもうるさかった僕は、「そんないいセットでそんなもん聞くな〜」と怒りまくっていたものである。
悶々とする日々を何年も過ごした後、そんな僕にもついに春が来た。高校の合格祝いとして、親がステレオセットを買ってくれたのである。そのときの嬉しさはとても口では言い表すことができない。
ただし、それは僕の夢見ていたような高級機ではなく一般向けの普及機で、しかも勉強の邪魔になるからと言って、自分の部屋には置かせてもらえなかった。仕方なく僕は、新しいレコードを買うと、ステレオの置いてある部屋でテープに録音し、それを自分の部屋のラジカセで聞くという、なんら中学時代と変わらない貧弱なオーディオ環境で3年間を過ごすこととなった。なんだか今思うととても無駄なことをしていたような気がする。
そういう僕が社会人になり、今、家でメインに使っているオーディオ機器がなにかというと…。これがCDウォークマンなのである。しかも一番安いモデルなのでよく音飛びをするのだ…。
所詮僕はオーディオマニアにはなれない人間なんでしょうねえ。
(2001/01/30)
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