★ 誘惑のアナログ盤

 僕が中高生の頃、まだCDなどというものはこの世になかった。あったのは、33回転のLPレコードや45回転のシングルレコード、いわゆるアナログ盤である。

 LPレコードは当時、新譜で2500円くらいしたと思う。それは20年前の中高生にはかなりの金額だった。僕の場合、親にもらっていた小遣いが月に3000円。その中で全てをやりくりしなければならない。それでもひたすらレコードが欲しかったので、お年玉を使わずにとっておき、小遣いにつぎたしたりしてなんとか毎月1枚くらいのペースでLPを買っていた。

 以前このコラムで書いたように、友達との購入分担制もやってはいたけれど、やっぱり好きなバンドのレコードは自分で持っていたい。しかし欲しいレコードは山のようにある。ビートルズにストーンズ、イエスやクリムゾンなどのプログレ、ツェッペリンやパープルなどのハード・ロック。クラッシュやストラングラーズといったパンクも聴きたいし、この間見た映画でかかってたドアーズってのもよかったなあ…。

 そんな風に頭を悩ませて買ったLPだったから、繰り返し聴くのはもちろんのこと、ジャケットやそこに書かれた細かいクレジット、ライナーノーツも飽きず繰り返し眺めていたものだ。

 70年代ロックのLPジャケットは、アートとしてのクオリティの高いものも多い。「スティッキー・フィンガーズ」のジッパージャケット(ウォーホール!)や、「恐怖の頭脳改革」の観音開きジャケット(ギーガー!)など凝ったデザインのものもあったし、ポスターやブックレットなどのおまけのついているレコードも多かった。

 そして日本盤には必ずついていた帯。僕はあれが大嫌いだった。ジャケットデザインを無視した垢抜けないデザインで、たいてい大仰なあおり文句が書いてある。「恐るべきパワーアップを遂げたピンク・フロイド、2年半の沈黙を破り炎を噴射!」とかね。「犯すのは君だ!」(ピストルズ「勝手にしやがれ」)なんてのもあった。当時ですらこれはひどいと思ったものだ。

 だから僕の場合、レコードを買ってきてすぐやるのは帯をはずすことだった。しかし、そのままゴミ箱にぽい、というのもしのびないので、あられの空き箱に意味もなく保存しておいたりした。

 ところがそれから20年がたった現在、帯付き日本盤は、世界中のアナログ盤コレクターの垂涎の的だというじゃないですか。帯があるとないとでは値段が倍以上違ったりするらしい。うーん、あのあられの箱、押入れにまだあるかな…。

 アナログ盤の悩みは、静電気やゴミによって起きるパチパチというノイズだった。それを防ぐためレコードスプレーやクリーナーに凝ったりした。ちょっと凝りすぎて、湿式のクリーナーに水をつけすぎ、かえってノイズがひどくなってしまったときのトホホな悲しさは忘れられない。

 だからCDが登場した時はほんとに嬉しかったものだ。これであのうざったいパチパチノイズから解放される。そう思ってだんだんとLPレコードよりCDを買う枚数が増え、いまやすっかりCDオンリーの音楽生活である。

 しかし、アートワークという点ではCDは到底アナログLPにはかなわない。あのプラスチック・ケースに収められたジャケット兼ブックレットはいかにも味気ない感じがするのだ。

 ところが、ここ数年、ペーパージャケットによりアナログ盤の仕様を再現したCDがリリースされるようになってきた。いわばアナログ盤のミニチュアである。これがなかなかいい。「スティッキー・フィンガーズ」はジッパーがちゃんと開くし、「恐怖の頭脳改革」は、ジャケットを真ん中から開けてメデューサの顔を見ることができる。この間リリースされたボブ・マーリーの「キャッチ・ア・ファイア」なんて、あの伝説のジッポ・ジャケットで、しかもジッポの蓋がちゃんと開くんだよ!!

 ただし、この紙ジャケシリーズの欠点は、ほとんどが初回限定盤であるということだ。ちょっと気を抜いているとあっという間に店頭から姿を消して、Yahooオークションでとんでもないプレミアがついていたりする。

 そういうわけで、「紙ジャケ探検隊」ホームページ(http://www.indierom.com/kami/index.htm)をチェックしながら今日も僕は、紙ジャケを求めてあちらこちらのCD屋を探訪するのでありました。


  (2001/08/16)

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