◎刺青の男 
 01.スタート・ミー・アップ
 02.ハング・ファイアー
 03.奴隷
 04.リトルT&A
 05.黒いリムジン
 06.ネイバーズ
 07.ウォリード・アバウト・ユー
 08.トップス
 09.ヘヴン
 10.泣いても無駄
 11.友を待つ 
 ◎スティル・ライフ 
 01.イントロ:A列車で行こう
 02.アンダー・マイ・サム
 03.夜をぶっとばせ
 04.シャタード
 05.トゥエンティ・フライト・ロック
 06.ゴーイング・トゥ・ア・ゴー・ゴー
 07.レット・ミー・ゴー
 08.タイム・イズ・オン・マイ・サイド
 09.ジャスト・マイ・イマジネーション
 10.スタート・ミー・アップ
 11.サティスファクション
 12.アウトロ:星条旗

★<刺青の男><スティル・ライフ> ローリング・ストーンズ

 ストーンズというバンドにはいつもダークなイメージがつきまとっていた。

 初期のリーダーであったブライアン・ジョーンズの不可解な溺死、演奏する目前で警備のヘルス・ヘンジェルスに黒人青年が撲殺された「オルタモントの悲劇」、噂としてささやかれる悪魔崇拝や黒魔術との関連、キース・リチャーズのヘロイン使用による逮捕・投獄などなど。

 それはビートルズのスマートな清潔さや、クイーンのめくるめく華やかさ、テーマパークのようなキッスの楽しさに比べて重すぎるイメージだった。普通の中高生が日常的に楽しむには手に余るバンドのように思えた。

 当時、彼らの初期アルバムの日本盤には解説書のような小冊子が封入されていて、そこに詩人や前衛芸術家やアングラ映画の監督などによるストーンズへの賛辞が書き連ねてあった。ストーンズはアングラ&反体制文化人たちのヒーローであったのだ。
 そういえば長谷川和彦監督の映画「太陽を盗んだ男」でも、主人公の男(演じるのは沢田研二)が自作原爆を盾にストーンズの来日を要求していたなあ…。

 ところがそういったストーンズのイメージを変えたのが81年にリリースされた「刺青の男」だった。ジャケットこそ顔に異教的なタトゥーをいれたミックとキース、というあいかわらずのものだったが、収録曲はどれも外向きのパワーに満ちあふれていた。端的にそれを表しているのが、オープニングの「スタート・ミー・アップ」だろう。

 キースによる「ぱ〜ららっ」というイントロのギターリフは驚くほどはつらつとし、まるで暗いトンネルの中から燦々と降りそそぐ陽光の中に躍り出たみたいだった。「俺をスタートさせてくれ」という詞の内容もポジティヴだったし。(ほんとはかなりエロティックな詞なんだけど)

 そして続く2曲目「ハング・ファイアー」ではドカドカというドラムスのフィルに続いて「ちゅーるる、るるっ、ちゅーるる、るるっ」である。ストーンズってこんなに元気のいいバンドだったんだ。

 前々作「女たち」にもそういう明るさはあったような気がするが、しかしあのアルバムは1曲目が「ミス・ユー」である。まだまだ退廃的な香りが全体のトーンを決定していた。前作「エモーショナル・レスキュー」に至ってはわびさびの極地のようなアルバムだったし。それに比べてこのわかりやすさは、退廃などとは無縁の生活を送っていた高校生の僕にはとても共感できるものだった。

 そういうわけで僕は「刺青の男」を毎日聴き狂った。ストーンズを同時代的に聴く喜びにうちふるえつつ。僕と同世代の人にはこのアルバムからストーンズにはまっていった人も多かったのではないだろうか。

 続いてアメリカン・ツアーでの演奏を収録したライヴ・アルバム「スティル・ライフ」が発売された。そしてこれこそは「アッパー・ストーンズ」を体現したかのようなアルバムであった。

 うきうきするような「A列車で行こう」にかぶさる大歓声と「ザ・ローリング・ストーンズ!」という興奮気味のMC、そして誰も予想もしなかった「アンダー・マイ・サム」によるオープニング。「夜をぶっとばせ」や「トゥエンティ・フライト・ロック」、「ゴーイング・トゥ・ア・ゴー・ゴー」に「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」。最初から最後までエンジン全開である。カズ山崎によるアルバム・ジャケットもこれまでにない明るくポップなものだった。70年代ダーク・ストーンズの象徴のような「ラヴ・ユー・ライヴ」とはえらい違いだ。

 このツアーはハル・アシュビー監督によって記録され、「レッツ・スペンド・ザ・ナイト・トゥギャザー」というドキュメント映画として公開された。大学生となっていた僕は日比谷の映画館にさっそく足を運んだ。ものすごく興奮しながら二回り見たのを覚えている。動くストーンズを見るのはほとんど初めてといってよかったし。

 それは圧倒的なコンサート映画だった。前半が野外、後半が屋内という構成で複数のライヴのベスト・ショットを組み合わせてあったが、特に野外ステージの解放感は素晴らしく気持ちがよかった。ミックはアメフト選手みたいな格好をしてステージを走り回っていた。キースとビル・ワイマンはひたすらマイ・ペースなたたずまい。ロン・ウッドはいたずらばかりするやんちゃ坊主のようだった。そしてチャーリー・ワッツの後頭部は禿げていた。

 屋内の部では、クライマックスの「サティスファクション」で大量に降り注ぐカラフルなバルーンが印象深い。まるでアイドルのコンサートみたいなベタな演出だったなあ。

 こうして80年代型アッパー・ストーンズはこの後も快進撃を続け、90年代型高性能ストーンズに変貌を遂げながら21世紀になっても現役のロックンロールバンドであり続けている。

 しかし後年、ある事実を知って僕はひどく驚くことになる。

 「刺青の男」は、ツアーを目前にひかえたストーンズが満足にレコーディングする時間を確保できなかったため、必要に迫られて過去のアウトテイクを聴きなおし、そこから選んだマテリアルに手を加えたり再録音した寄せ集め作品集だったというのだ。

 「友を待つ」は「山羊の頭のスープ」のアウトテイク、「奴隷」は「ブラック・アンド・ブルー」のアウトテイク、「トップス」はミック・テイラー在籍時の録音でソロを弾いているのも彼、といった具合に。80年代ストーンズのテーマ曲となった「スタート・ミー・アップ」ですら「女たち」のアウトテイクだったという。

 そうなると「これぞ新しいストーンズ!」といって興奮しながら聴いていた俺の立場はどうなるんだ…という気にならないでもない。ならないでもないが、寄せ集めからこれだけの新しい方向性をうちだしたストーンズの凄さには逆に感心してしまうのであった。いや奥が深いバンドだよね、やっぱり。

 (2002/10/17)

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