●STRANGEWAYS, HERE WE COME

 01. A Rush And A Push And The Land Is Ours
 02. I Started Something I Couldn't Finish
 03. Death Of A Disco Dancer
 04. Girlfriend In A Coma
 05. Stop Me If You Think You've Heard This One Before
 06. Last Night I Dreamt That Somebody Loved Me
 07. Unhappy Birthday
 08. Paint A Vulgar Picture
 09. Death At One's Elbow
 10. I Won't Share You

★<ストレンジウェイズ・ヒア・ウィ・カム> ザ・スミス

 「ハロー 僕は18ヶ月前に 真っ白な首を吊って死んだ 悩めるジョーの亡霊さ」

 ザ・スミスのラスト・アルバム「ストレンジウェイズ・ヒア・ウィ・カム」はこんな風にはじまる。まさに「ほらやってきた、こんな奇妙なやりかたで」。

 世の中がMTVに染まり、脳天気でライトな音楽を響かせていた80年代。激動の60年代や変革の70年代を体験した評論家たちに「空白の80年代」などと呼ばれ馬鹿にされつづけた十年間。

 そんな時代に、表通りの華やかなネオンを避け、裏通りを一人とぼとぼと歩く少年。それがザ・スミスだった。

 イギリスで一番ありふれた苗字「スミス」。そんな人間ばかりが集まってできたバンドだから複数形でThe Smiths。ものすごい皮肉だ。だってバンドの中心人物、モリッシーは自分がありふれた人間だなんて全く思っていなかったに違いないから。グラジオラスを振り回しながらくねくねと歌い踊る自意識過剰の同性愛者。全く平均的じゃない。

 彼らはインディー・レーベルであったラフ・トレードと初めて長期契約を交わしたバンドだった。

 そして奇妙なタイトルのアルバムばかりをリリースした。
 「HATFUL OF HOLLOW(帽子いっぱいの空虚)」
 「MEAT IS MURDER(肉食は殺戮だ)」
 「THE QUEEN IS DEAD(女王は死んだ)」
 「THE WORLD WON'T LISTEN(誰も聴かないだろう)」
 「LOUDER THAN BOMBS(爆弾よりでかい音で)」

 曲のタイトルだって奇妙だった。 
 「BIGMOUTH STRIKES AGAIN(おしゃべりな奴がまたやってくる)」
 「WILLIAM, IT WAS REALLY NOTHING(ウィリアム、ほんとになんでもなかったんだ)」
 「THAT JOKE ISN'T FUNNY ANYMORE(そのジョークはもうおもしろくないよ)」
 「WHAT DIFFERENCE DOES IT MAKE ?(なにが違うっていうんだい?)」
 「YOU JUST HAVE EARNED IT YET, BABY(君はまだそれを手に入れてないよ、ベイビー)」
 「PRETTY GIRLS MAKE GRAVES(きれいな女の子たちは墓をつくる)」
 「SHOPLIFTERS OF THE WORLD UNITE(世界中の万引き犯は団結する)」

 そして、インディーからメジャーに移籍しようとした矢先、バンドは空中分解する。

 彼らの音楽的ピークはたぶん誰もが認めるとおり「ザ・クイーン・イズ・デッド」だろう。寒気がするほどのテンションと凄みに満ちたアルバム。そんな化け物のような作品を生み出してしまえば、そのあとの活動は単なる付け足しにならざるをえない。

 だがこのラストアルバムにはバンドが崩壊する直前の輝きが封じ込められている。ローソクが吹き消されるとき一瞬だけ明るく輝くように。

 「ぼくは自分で終わらせられないことを始めてしまった」
 「ガールフレンドは昏睡状態/わかってる わかってる ひどいことさ」
 「とめてくれ とめてくれ/前にも同じことを君が聞いたと思っているのなら」
 「ゆうべ 誰かに愛された夢を見た/希望はない でも傷つけられることもない」 
 「君の不幸な誕生日を祝いにやってきたよ/君のアンハッピー・バースデイを」
 「愛と平和と調和だって?/いいねいいね すごくいいね/来世でならね」

 悪意と呪詛と皮肉と自己憐憫の展覧会。

 でもスミスは心に茨を抱いた多くの少年少女たちを救った。それが良いことだったのか悪いことだったのかはわからないけれど。

 最後の曲でモリッシーはこう静かに歌う。「僕は君を誰かと分けあったりはしない」

 目の前にいる誰かには決して届かないラヴソング。それはとてもやるせない。

 (2003/06/18)

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