●38カラット・コレクション 【Disc 1】 01. Lions in my own garden 02. Don't sing 03. Couldn't bear to be special 04. When love breaks down 05. Faron Young 06. Appetite 07. Johnny Johnny 08. Cars and girls 09. King of rock 'n' roll 10. Hey Manhattan 11. Golden calf 12. Looking for Atlantis 13. We let the stars go 14. Carnival 15. Sound of crying 16. If you don't love me 17. Life of surprises 18. Prisoner of the past 19. Electric guitars |
【Disc 2】 01. Cue fanfare 02. Cruel 03. Bonny 04. Moving the river 05. Desire as 06. Horsin' around 07. Pearly gates 08. Till the cows come home 09. Enchanted 10. I remember that 11. Nightingales 12. Jordan the comeback 13. All the world loves lovers 14. Jesse James bolero 15. Doo wop in Harlem 16. Life's a miracle 17. Swans 18. Andromeda heights 19. Where the heart is |
★<38 カラット・コレクション> プリファブ・スプラウト
「時がたっても色あせないものがある。(Some things are slow to fade.)」
'99年にリリースされたプリファブ・スプラウトのベストアルバム「38カラット・コレクション」のライナーノーツはこう始まる。書いたのはジャイルズ・スミス。
彼は初めてプリファブ・スプラウトに出会ったときのことを回想する。1984年、TVの音楽番組<チューブ>で彼らのPVを見たのが最初だった。
「数人の男どもと一人の女の子、カーテンをまとうことはなく、化粧もほとんどしないで、サウンドはせっぱつまった感じだった。」
ジャイルズはさっそくレコードショップに出かける。
「グループ名は確認したのだが、曲のタイトルを確認しそびれた。ああ、あれね、と、<アワ・プライス>のカウンターにいた黒いTシャツ姿の男が言った。彼は物知り顔に口元をゆがめてみせた。土地を所有する上流階級の一員か、レコード屋の店員でなければ持ちえない自信を漂わせていた。」
そして店員はジャイルズに「ライオンズ・イン・マイ・オウン・ガーデン」を売る。
「この野郎。それは違うレコードだった。<チューブ>でかかっていた曲は”ドント・シング”だった。ところがこれは……これは…いや、ちょっと待てよ。それは”ライオンズ・イン・マイ・オウン・ガーデン”だった。それはすばらしかった。(中略)それは僕がレコード屋で犯した最高のミスだった。15年たった今でも、僕はレコードを取り替えにいっていない。もう擦り切れそうになっている。『ほんとに全然かけてませんから』。そう、ほんの5万回程度。」
僕がプリファブ・スプラウトに出会ったのもジャイルズ・スミスと同じく84年のことだった。
音楽雑誌の輸入盤レビューで彼らのファースト・アルバム「Swoon」を知ったのだ。「すぐれたネオアコ・バンドがまた登場した」というような記事の内容だったと思う。
アズテック・カメラやエヴリシング・バット・ザ・ガールといったネオアコに夢中になっていて、常に新鮮なサウンドを求めていた僕は、さっそく渋谷の輸入盤屋「CISCO」にでかけた。当時、イギリスのアーティストの新譜をいちはやく手に入れるのならば、タワー・レコードよりCISCOだった。
案の定、そこにはちゃんと「Swoon」がディスプレイしてあった。迷うことなく僕はそのアルバムを買った。音も聴かずに。レビューだけを信じて。
アパートに帰ってさっそく聴いてみる。しかしレコードから流れてきた音は僕が期待していたものとは少し違った。
サウンドは確かにシンプルで、ギター・オリエンティッドだ。が、僕がネオアコ・サウンドに求めていた明快な気持ちよさ(もしくは淡々としたクールネス)とは違う複雑さと奇妙な切迫感がそこにはあった。
いま彼らのことをネオアコバンドと呼ぶ人などいないだろう。しかしそのときはまだそんなことはわからなかった。目の前には「Swoon」一枚しかないのだから。
アルバム中の1曲「ドント・シング」は気に入ったけれど、そのときは正直それほど魅かれなかった。
評価が変わったのはセカンド・アルバム「スティーヴ・マックイーン」がリリースされたときだ。
これまた最初はなんとも思わなかった。しかし何度か聴き返すたびに彼らの音楽が少しづつ少しづつ身体の奥深くにしみこんでいくような気がしてきた。
こんなにいいグループだったっけ。いぶかしく思ってファースト・アルバムを聴きなおしてみると、そこにはいままで見過ごしていた魅力がひっそりと横たわっているのに気付いた。それはまだごつごつとしたものではあったけれど。
それ以来、彼らの新しいアルバムがリリースされると必ず手に入れることにした。「ラングレー・パークからの挨拶状」「プロテスト・ソングス」「ヨルダン:ザ・カムバック」……。どの作品も僕の心の奥深い部分を強く共鳴させた。
気がつくとプリファブ・スプラウトは僕にとってかけがえのないグループになっていた。
彼らは厳格なまでに楽曲主義のグループだ。ソングライターであるパディ・マカルーンは流行りのヒット曲を生産するより、時代が変わっても聴き続けることのできる普遍的なポップソングを生み出そうとしている。バート・バカラックやジミー・ウェブといった偉大なソングライターたちに影響をうけながら、他の誰にも似ていないタイムレス・ピースを。
そんな彼らの音楽をたっぷりと味わうためにこのベストアルバムは最適だ。シングル・カットされた19曲を集めたディスク1と、アルバムからのトラックを19曲集めたディスク2。あわせて38個の宝石たち。ジャイルズ・スミスを魅了した「ライオンズ・イン・マイ・オウン・ガーデン」ももちろん収録されている。
38曲をとおして聴いてみると、不思議な統一感に驚く。ここに収められた楽曲が作られた時期は十数年にわたっているのに。
プリファブは最初からプリファブとして完成していたのだと思う。表面的なところではない本質的な部分で。
僕はたぶん死ぬまでこのアルバムを聴き続けるだろう。折にふれ。ライナーノーツを読み返しながら。
(2003/12/06)
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