ザ・フー・バイ・ナンバース ◎ザ・フー・バイ・ナンバーズ  
 1.スリップ・キッド
 2.ハウエヴァー・マッチ・アイ・ブーズ
 3.スクイーズ・ボックス
 4.ドリーミング・フロム・ザ・ウエイスト
 5.イマジン・ア・マン
 6.サクセス・ストーリー
 7.ゼイ・アー・オール・イン・ラヴ
 8.ブルー・レッド・アンド・グレイ
 9.ハウ・メニー・フレンズ
 10.イン・ア・ハンド・オア・ア・フェイス
 

★<ザ・フー・バイ・ナンバーズ> ザ・フー

 初めて聴いた時には素晴らしく思えても、時を経るに従ってその輝きを失っていってしまうアルバムがある。
 
 その逆に、初めの印象は良くなくても年を重ねるごとに魅力を増すアルバムというものも存在する。僕にとってはザ・フーの「バイ・ナンバーズ」がそうだ。

 ザ・フーは僕にとって特別に思い入れのあるバンドである。端的に「いちばん好きなバンド」だと言ってもいい。ロックを聴き始めた中学生の頃に、年上の従兄弟から「フー・アー・ユー」を聴かされて以来、僕は彼らの虜になってしまった。

 今でこそミッシェル・ガン・エレファントを初めとする若いバンドがリスペクトするザ・フーであるが、当時は全くといっていいほど日本では人気がなかった。それでもレコード屋に行けば70年代のアルバムは比較的容易に入手できたので、僕は時代を遡りながらこつこつと彼らのアルバムを聴いていった。

 70年代の彼らの作品といえば、誰もが代表作と認める「フーズ・ネクスト」(71)、ライヴ・アルバムの傑作「ライヴ・アット・リーズ」(70)、後に「さらば青春の光」という映画にもなったコンセプト・アルバム「四重人格」(73)といったところが有名である。

 それに比べ「バイ・ナンバーズ」(75)の評価は低い。「ぱっとしない地味なアルバム」といった評価が一般的だろう。しかし僕はこのアルバムが好きなのだ。ここにはリーダーであるピート・タウンゼントの当時の思いが包み隠さずに表現されているからである。

「自由になることなんてできないのさ/つらいつらい世の中だ」「あんたが何を言おうと気にしない/出口なんてないんだから」「あばよチンピラども/いつまでも若くハイなままでいな/おまえらにはもう飽き飽きだ」「本当の友達ってどれくらいいるんだろう/愛してくれて、求めてくれて、ありのままの俺を受け入れてくれる友達が」「俺はぐるぐるぐるぐる回っている/俺はぐるぐるぐるぐる回っている」

 この頃、英米での彼らの人気はピークを迎えていたはずだ。実際このアルバムも英米チャートでベスト10に入っているし、フットボール・スタジアムを満杯にするような巨大なコンサートも行っている。しかしその中でピートはこんな疲労感と倦怠感を抱えていたのである。

 サウンドも味わい深い。内省的な歌詞に寄り添うようにアコースティック・ギターが随所で使われているし、エレクトリック・ギターの音色もナチュラルである。ゲストのニッキー・ホプキンスのピアノも効果的だ。

大人になってこそ、その良さがわかるロック・アルバムである。
 
 (2000/12/26)

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