◎ 孤独なランナー 1.孤独なランナー 2.ロード 3.ロージー 4.ユー・ラブ・ザ・サンダー 5.コケイン 6.シェイキー・タウン 7.ラブ・ニーズ・ア・ハート 8.時に願いを 9.ロード・アウト 10.ステイ |
★<孤独なランナー> ジャクソン・ブラウン
ミュージシャンにとって、コンサート・ツアーというのはどんなものなのだろう。そんなことを時々考えることがある。楽しいものなのか、つらいものなのか。
ビートルズは、あまりに過密なスケジュールと劣悪な演奏条件に疲れ、ツアーをやめてスタジオにこもった。XTCもそうだ。
そうかと思うと、グレイトフル・デッドのように、スタジオで新しい作品を作るよりも、一年中ツアーを行うことを好むバンドもいる。
ライヴをしたいというのは、ミュージシャンの自然な欲求だろう。そこには観客の生々しいリアクションがある。しかし長期にわたるツアーで、毎晩同じような曲を繰り返し演奏するとなると、当初の新鮮さも薄れ、うんざりしてしまうミュージシャンも多いのではないだろうか。
特に、広大なアメリカをツアーするミュージシャンはたいへんだろうと思う。よく音楽雑誌で「○○が全米50カ所のツアーを開始した」などというニュースを見るが、体力的にも精神的にもタフでないと、とてもやっていけないに違いない。
今回紹介するジャクソン・ブラウンの「孤独なランナー」('77)は、ツアーにまつわるミュージシャン自身の様々な思いを吐露したアルバムである。
基本的にこれはライヴ・アルバムだ。しかし、収録されているのは(その時点での)新曲ばかり。しかも、ステージでの演奏曲だけが含まれているわけではない。ツアー先のホテルの部屋での録音やバックステージでの録音、果てはツアー・バスの中での演奏さえ収められている。
そして、「僕は走り続ける/むなしく走り続ける/太陽に向かって走り続けるが/追いつくことができない」と歌われる「孤独なランナー」から、グルーピーとドラッグまみれの倦怠を歌った「コケイン」や、裏方であるローディーたちの悲哀とささやかな喜びを題材にした「ロード・アウト」を経て、「ここにとどまっていてほしい/もう少しだけ演奏していたいんだ」と観客に呼びかける「ステイ」まで、このアルバムは、ツアーにおけるミュージシャンの様々な思いに満ちている。
素晴らしいバンドもこの作品の魅力を引き立てている。ラス・カンケル(ドラムス)、リーランド・スクラー(ベース)、ダニー・コーチマー(ギター。最近再評価著しいですね)、そしてデヴィッド・リンドレー(フィドル&ラップ・スティール)。派手ではないが、深みのある演奏をする面々である。
アルバム・ジャケットにも注目してほしい。地平線までのびる一本の道に置かれたドラムセット。このアルバムの中身を的確に表現したデザインだ。
僕がこのアルバムを初めて聴いたのは14歳のとき。そして36歳の今も、このアルバムを聞き続けている。年老いてもたぶん僕は、このアルバムを大切に聴き続けるだろう。
(2001/2/20)
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