ワン・サイズ・フィッツ・オール ◎ワン・サイズ・フィッツ・オール 

(1)インカ・ローズ
(2)キャント・アフォード・ノー・シューズ
(3)ソファNo.1
(4)ポ・ジャマ・ピープル
(5)フロレンティン・ポーゲン
(6)エヴェリン,ア・モディファイド・ドッグ
(7)サン・ベルディーノ
(8)アンディ
(9)ソファNo.2

★<ワン・サイズ・フィッツ・オール> フランク・ザッパ

 フランク・ザッパ。ロック界の巨人である。しかし、知名度に比べ、彼の音楽を日常的に楽しんでいる人は正直あまり多くないと思う。その原因はアルバムの数の多さと、彼の音楽の「わかりにくさ」にあるのだろう。

 彼は多作家である。なにせ生前に発表されたアルバムだけでも60タイトルを超えるのだ。そしてその内容といえば、ロックのイディオムにのっかったものから、インスト中心のジャズ/フュージョン系、コラージュなどを多用したアヴァンギャルド・ミュージック、シンクラヴィアの自動演奏による現代音楽まで多種多様である。いったいどれから聴いたらいいんだ〜、と思うのも無理はない。

 記憶をたどってみると、僕自身もザッパに関しては回り道をしてきた。

(1)高校時代、友人が「ズート・アリュアーズ」を貸してくれる。一聴、感想は「へんな音楽だなあ。」テープには録音したものの、繰り返して聴くことはなかった。(今でもこのアルバムはあまり好きじゃないです。)

(2)同じ頃、渋谷陽一の「サウンドストリート」で、当時リリースされたばかりだったアルバムから「ゴブリン・ガール」を聴く。非常にわかりやすくポップな曲で、「ズート・アリュアーズ」との違いに混乱する。

(3)大学1年の時、渋谷のタワーレコードで「ジョーのガレージ パート1」のアナログ盤を発見、購入。ロックが禁止された世界を舞台にしたロック・オペラ。ストーリーとともに「バイオニック・ファンク」との異名をとった音楽にも衝撃を受ける。「こんなにかっこいいんだ、ザッパって。」他のアルバムが聴きたくなり、輸入盤屋を探すが発見できず。飢餓状態つのる。

(4)大学3年の時、本人監修による輸入盤CDが出始める。同時期に本人リマスターによる輸入盤アナログも。それらを次々と買って「ゼム・オア・アス」や「ユー・アー・ホワット・ユー・イズ」といった80年代ザッパ代表作にはまる。ついにはリマスターアナログ盤ボックスセット「オールド・マスターズ・ボックス」を大枚はたいて購入、60年代&70年代ザッパの素晴らしさに感動し、以後、ザッパのアルバムならばなんでも買うというマニアに成り果て、現在に至る。

 というように、15年ほど前には音源自体が入手困難だった。回り道をした原因もそこにある。それにくらべれば今は天国だ。きちんとした解説と訳詞のついた日本盤CDが簡単に手に入るんだから。

 これだけ多数のアルバムを出しておきながら、ザッパには駄作が少ない。いや、ほとんどないと言ってもいい。

 だが、とっつきやすいアルバムとそうでないアルバムというのはやはり存在する。そこで僕なりに「とっつきやすい」アルバムを紹介してみたい。

 まず60年代ならば「ホット・ラッツ」と「バーント・ウィニー・サンドウイッチ」。この頃のアルバムは、当時の状況や歌詞の内容についての予備知識がないと楽しみにくい点があるのだが、この2枚は大丈夫。インスト中心ということもあり、音楽だけで十分楽しませてくれる。
 
 ちなみにネオン・パークによるジャケットが強烈な「いたち野郎」は、とっつきにくいアルバムの代表格なので注意が必要。伝説的ファーストアルバム「フリーク・アウト!」も最初に聴くには不適だ。

 そして70年代は…迷うなあ。この年代は「とっつきやすい傑作」の宝庫なのだ。ビッグ・バンド・ジャズっぽい「グランド・ワズー」もいいし、「ホット・ラッツ」の続編「ワカ/ジャワカ」もかっこいい。「オーヴァーナイト・センセーション」や「アポストロフィ」、「ザッパ・イン・ニューヨーク」に「シーク・ヤブーティ」、前述の「ジョーのガレージ」もどれも楽しめる。

 しかし、一枚となるとやっぱりこれかなあ。75年発表の「ワン・サイズ・フィッツ・オール」である。

 まずメンバーが強力。ジョージ・デュークのキーボード、チェスター・トンプソンのドラムス、ルース・アンダーウッドのパーカッション、トム・ファウラーのベース、ナポレオン・マーフィー・ブロックのサックス。個人的には歴代のメンバーの中で最強の面々だったと思っている。

 そして何よりザッパのギターが素晴らしい。これ以降のアルバムでは若手ギタリスト(スティーヴ・ヴァイなど)に弾かせることが多くなるザッパだが、ここでは全てのギターを自分一人で弾いている。ギタリストとしてのザッパの魅力を堪能できるという点でも嬉しいアルバムだ。

 さらにこれに、ジョニー・ギター・ワトソンとキャプテン・ビーフハートという最高のゲストが加わるのだから…。ザッパのアイドルだったというワトソンのねばっこいヴォーカルも、ビーフハートのやさぐれたハーモニカもどちらも印象的だ。

 曲もいい。「インカ・ローズ」や「ソファ」といった聴きやすくかつクオリティが高いといういかにもザッパらしい曲が並ぶ。

 また、ザッパのジャケットのアートワークをずっと手がけてきたカル・シェンケルの手によるジャケットも楽しい。特にジャケット裏の偽天体図には思わずにやにやしてしまう。

 というように、まさに「ひとつのサイズでみんなにぴったり」というタイトル通り、楽しみどころ満載の名作なのである。

 これを聴いて一人でも多くの人がザッパの音楽にずぶずぶとはまっていくことを願います。

 (2001/10/15 )

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